研究内容

ニュートリノは、CP対称性を破っているか?

 相対性理論にもとづいて素粒子の従うべき性質を考えていたディラックは、1930年に素粒子には、電荷が反対の状態『反粒子』が存在することを予言しました。反粒子が実際に存在することは1932年に陽電子の発見により確かめられました。

素粒子と反粒子は電荷が反対である以外は同じ性質を持つ、すなわち素粒子の従う物理法則は荷電(Charge)変換と空間反転(Parity)に対して不変であると考えられていました。

 さて、我々の宇宙には物質のみが満ちていて、反粒子でできた反物質は見当たりません。宇宙が、このような状態で存在するためには、(1)バリオン数保存を破る過程、(2)CP対称性を破る過程、そして(3)熱平衡の破れが必要であるとサハロフは1967年に示しました。

CP対称性の破れは、1964年、中性K中間子の崩壊において見つかっていました。中性K中間子は、クォーク1個と反クォーク1個でできた複合粒子です。このCP対称性の破れは、異なる質量を持つクォークが三世代以上あることによるという理論が小林・益川により提唱され、その後、小林・益川模型が実験的に確認されました。しかし、小林・益川模型によるCP対称性の破れでは、現在の物質の量を説明するのに10桁足りないことが判明しました。我々の宇宙における物質・反物質の非対称は、現代の素粒子の標準理論では説明できない謎なのです。

 物質を構成している素粒子はクォークと電子ですが、電子は、ミュー粒子、タウ粒子、そして対応するニュートリノとともにレプトンと呼ばれ、三世代構造を持っています。1998年、スーパーカミオカンデによりニュートリノ振動現象が発見され、ニュートリノが質量を持つことが明らかになりました。これは、レプトンにおいてもCP対称性が破れることが可能であることを意味しています。

 現在、宇宙における物質・反物質の非対称の起源として最も有望な説は、ニュートリノのCP対称性の破れがレプトン数を生み出し、それがさらにバリオン数も生み出したというものでレプトジェネシスと呼ばれています。

 ニュートリノにおけるCP対称性の破れを観測するために、当研究室では、加速器ニュートリノ振動実験T2Kおよびハイパーカミオカンデ計画を進めています。J-PARC加速器で生成したニュートリノを295 km離れたスーパーカミオカンデ検出器あるいは現在建設中のハイパーカミオカンデで測定します。T2K実験では、2020 年までの測定で、CP 対称性が破れている可能性が90%以上であるという結果を得ています。2020年代後半にニュートリノはCP対称性を破っているのか、破れているのであれば、その大きさはいくつかという答えが得られる可能性が高まっています!

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