研究内容

国際リニアコライダーInternational Linear Collider; ILC)は、全長20kmの線形型加速器です。国際協力の下に建設計画が進められており、完成すれば世界最大の線形加速器となります。

加速器の両端から加速させた電子陽電子を正面衝突させることで実験を行います。高エネルギー衝突の際に出てきた粒子を測定することによって、宇宙初期の謎やダークマターの解明を主な目的としています。

新物理の探索

素粒子には、力を伝搬するゲージ粒子、物質を構成するフェルミオン、質量の起源となるヒッグス粒子の3種類があります。現在の理論的枠組みは標準理論Srandard Model)と呼ばれ、世界中の実験結果が理論と良く整合していることが裏付けられています。

しかし、未だにこの理論では説明できない問題は残されており、ILCではそれを解決するため実験を行います。宇宙に残る未解決の謎と、ILCがそれをどう解決しようとしているのか、その一部を紹介します。

ヒッグス粒子と階層性問題

2012年6月、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)でヒッグス粒子が発見されました。ヒッグス粒子とは、他の素粒子との相互作用によって、素粒子に質量を与える粒子です。宇宙初期には質量を持たなかった素粒子が、なぜ質量を持っているかという疑問を解決する、世紀の大発見でした。

ヒッグス粒子もゲージ粒子などと同じスケールの質量(125 GeV)を持ちます。しかし理論的には、ヒッグス粒子は1019 GeVスケールの質量を持ってもよい、とされています。こんなに小さい質量を持つためには、理論のパラメータを1019の精度で都合よく調整する必要があります。

この二つのスケールの間の不自然なほどの隔たりは「階層性問題」として呼ばれ、未解決問題の一つとなっています。

ILCはヒッグス粒子を大量に効率よく生成できることから「ヒッグス・ファクトリー」とも呼ばれています。大量に作り出したヒッグス粒子を用いて、その性質や、他の素粒子との相互作用についてより精密な測定を行うことができます。これにより、二つの階層性の差を埋める糸口を見つけ出すことが期待されています。

暗黒物質の探索

暗黒物質(ダークマター)とはこの宇宙を満たす謎の物質です。宇宙観測の結果から、その存在が確実とされている一方で、その実態が未だに解明されていません。

ILCでは暗黒物質の直接生成や、精密測定による間接探索などの手法で、実態を解き明かそうとしています。